図書
『令和版剣道百家箴』
「世界における剣道」
剣道範士 田川 順照 (アメリカ)
1967年、明治100年を記念して10ヵ国を招待した国際親善剣道大会が催され、剣道を世界に普及させようとする機運が高まりました。その機運を背景に1970年に国際剣道連盟が設立され、同年には第1回世界剣道選手権大会が東京・日本武道館において17ヵ国・地域の参加のもと開催されました。1997年、京都で開催された第10回世界剣道選手権大会からは、世界女子剣道選手権も併せて開催されるようになりました。そして2027年には、第20回世界剣道選手権大会が第1回大会と同じ東京都で開催される予定です。この大会には64ヵ国・地域からの参加が見込まれており、剣道は約60年の歳月をかけて世界各国に広がり、現在も発展を続けています。
剣道が急速に世界へ発展するにつれて、試合数も増加し、本来の「剣道の理念」を見失い、勝敗のみを追求するような試合が見られるようになりました。こうした状況を是正するため、剣道の奥深さや文化的価値、さらには武道としての本質を理解し、その修錬に励むことの重要性を指導・普及してまいりました。2024年にイタリア・ミラノで開催された第19回世界剣道選手権大会では徐々にではありますが、精神的においても本来あるべき剣道に近づいてきたという印象を受けました。
また、2025年に京都で実施された全日本剣道連盟主催の八段審査では、国際所属として5人目となる八段合格者が誕生しました。
国際剣道連盟は、2006年GAISF(国際スポーツ団体連合)に加盟しました。その後、GAISFの解散に伴い、AIMS(IOC非承認国際競技団体連合)に加盟し、現在では、剣道(KENDO)という名称が国際的に認知されています。さらに将来的には、IOC承認国際競技団体としての認定も視野に入れており、その実現に向けて法人化の準備も進めています。
このように国際剣道連盟が発展する中で将来の剣道普及のあり方を考えた場合、剣道の理念(「剣道は剣の理法の修錬による人間形成の道である」)における「剣の理法」を海外でよりわかりやすく指導する必要があると思います。
その際、「剣の理法の説明版」(全日本剣道連盟 令和6年3月)が大変役に立ちます。その本文に「『剣の理法』とは、気剣体一致した打突を生み出すために心法・刀法・身法を一体としてはたらかせる理にかなった方法のことである。」とあり、《補足》に「気剣体一致した打突は、心法(心のはたらき)と刀法(刃筋・物打・鎬などが機能する刀・木刀・竹刀の適正な操作)と身法(体勢・体さばきなどの身体の運用)とが一体となっているものである」とあります。このうち心法、刀法、身法について、私はさらに以下を加えて指導したいと考えております。
心法:剣の技を出すための心の状態や意識のことで、そのために集中力、自信、冷静さなどが必要。
刀法:竹刀や剣の扱い方、刃筋などの技術のことで、そのためには正しい姿勢や呼吸などが必要。
身法:体勢や動きのことで、バランス、柔軟性、スピード、正しい踏み込みなどが必要。
欧米では居合道の普及が進み、日本刀や居合刀を見たり触れたりする機会はあっても、刀法に身法(体)が伴わないケースが多いようです。地域によってばらつきがあるのですが、有段者となっても気剣体が一致しない例として、気・剣に体が伴わない、気・体に剣が伴わない剣士が多々見られます。
なかなか難しいですが、四段以上の有段者(欧米では「先生」と呼ばれ指導的立場にあります)へ、「剣の理法」における「刀法」、「身法」とはどのようなものなのかを、竹刀の扱い方を通して指導することが、剣道を海外に普及する上で大切なことではないでしょうか。
剣道は単なるスポーツではなく、礼儀や精神を重んじる武道です。その本質的な意義について、今一度深く考える必要があると考えます。(受付日:令和7年5月29日)
*『令和版剣道百家箴』は、2025年1月より、全剣連ホームページに掲載しております。詳しくは「はじめに」をご覧ください。



