図書
『令和版剣道百家箴』
「剣道と私」
剣道範士 大嶽 將文(愛知県)
小学・中学校時代(剣道との出会い)
私は、昭和21年、愛知県蒲郡市形原町に生まれた。形原町は、昭和28年に第1回全日本剣道選手権者になられた榊原 正先生の出身地でもある。
小学6年の時、初めて竹刀を握り、中学に入学をすると剣道部が創部されることになった。その時の恩師は波多野 秀夫先生(全国教職員剣道大会中学の部個人準優勝)で、先生は形原中学を3年間で愛知県NO.1にする目標を立てられ、地獄の猛稽古が始まった。普段は1日2回、午前7時から8時までの朝稽古、午後は3時半から5時半までで、土曜日も午後7時から9時までと一般の人達との稽古もあった。3年生時の対外試合では一度も負けたことがない。
高校時代
中学校を卒業していよいよ高校生活の始まりである。当時の県立豊橋商業高校は愛知県の中でも剣道の強豪校であり、兄も卒業をしており進学したい気持ちがあったが、私は、私立桜丘高校に進学した。
桜丘高校の前身は女子校であり、私が入学する数年前に共学となったばかりで、歴史も浅く剣道部の先輩も数名いただけで、実質私達1年生が新チームを結成し大会に出場した。新チームの5名は、私以外の4名は全員特待生で授業料免除、毎月小遣い千円を頂いており、今の時代では考えられないほど優遇されていた。
高校の恩師は匹田 勝夫範士で、基本稽古を中心として指導をしていただいた。2年生の頃より東三河の剣道大会で優勝をすることができるようになり、東海予選を勝ち抜いて山口県萩国体にも出場した。高校最後の3年生の時にはライバル校である東邦高校にいつも決勝で負けていたが、静岡県で行われた東海四県大会で優勝をすることができた。
大学時代
10月には就職も決まっていたが、愛知学院大学から勧誘され、匹田先生の強い勧めもあり、昭和40年4月に愛知学院大学に入学した。
本大学も特待生制度があり、4年間授業料免除の恩恵を受けた。大学の恩師は、第6回全日本選手権優勝者の鈴木 守治先生である。先生は会社に勤めておられた関係で、指導をしていただくのは週1回であった。
鈴木先生は、間合いに明るく、すりあげ技、抜き技、返し技、全てにおいて冴えとスピードがあり、正に天才であった。
大学時代の成績は、東海地区で強豪の中京大学がおり、毎年2位の成績であったが、4年生時、秋の全日本学生優勝大会で、関東の名門である慶応大学に勝ったのが一番の思い出である。
4年生の夏に、当時愛知県警の師範をされていた谷 鐐吉郎範士八段に警察に勧誘していただき、警察官になることを決めた。
警察時代
昭和44年4月に春日井市廻間町にある愛知県警察学校に入校した。その時の同期生は、名城大学小林 幸二と愛知大学置田 明であった。
剣道特別訓練員の14年間では、全日本選手権6回出場、持田賞2回、警察官大会二部優勝2回、3位1回、一部準優勝1回であった。助監督2年、監督を6年、その後、師範となり、平成19年、術科指導室室長を最後に退職した。
教員時代
平成19年3月に警察を退職後、愛知県教育委員会より「特別教育免許」を頂き、4月より蒲郡市にある中高一貫校である海陽中等教育学校に体育の教員として採用された。
この学校は中部地方のトヨタ自動車、JR東海、中部電力のほか、東海地区の企業100社が出資する、将来の日本を牽引するリーダーを育成する学校であり、一学年120名で6年間全寮制のマンモス男子校である。
私は、学校創立2年目からの採用で体育の受け持ちは、ソフトボール、バレーボール、バスケットボール、サッカー、器械体操、柔道、剣道であった。剣道以外の種目は初めてであり、ルールを覚えることが大変であったが、子供たちと一緒に競技をすることは本当に楽しい思い出であった。体育の教員を3年、非常勤講師として剣道部の指導を8年、計11年間で教員生活を終えた。
愛知県剣道連盟理事長・会長
愛知県は日本の真ん中に位置し、交通網も発展し、南は沖縄県から北は北海道まで、どこの都道府県からも来県しやすい場所である。
そのため、愛知県剣道連盟は多くの全国規模の大会を開催している。古くは第1回都道府県選抜剣道大会が昭和43年に開催され、昭和58年まで16回行なわれた。この大会は、昭和59年に全日本都道府県剣道道場対抗優勝大会に名称変更され、平成5年まで10回開催されている。
また名古屋鉄道株式会社のご尽力により、昭和52年に第1回明治村剣道大会が開催された。この大会は、日本を代表する八段の先生方が試し合う、初めての日本剣道界最高峰の大会であった。最後の大会となった平成14年の第26回大会に、愛知県代表として私も出場させていただいた。
現在、愛知県の行事として、毎年3月に春日井市総合体育館で開催されている、全国高等学校剣道選抜大会が34回を数え、4月の全日本選抜剣道八段優勝大会も23回となっている。
5月と11月には、七段、六段審査会があり、8月には八段審査会が名古屋で開催される等、当剣道連盟は全剣連の主催する行事に協力し、多大な貢献をしている。
私は、理事長、会長として9年が経過した。この間、新型コロナウイルスの蔓延により行事や大会等が中止や延期になったが、会員の皆様のご協力により、現在は様々な制約の中ではあるが、大会、講習会が滞りなく行われている。
愛知県剣道連盟会長として、「剣道は剣の理法の修錬による人間形成の道である。」という剣道の理念を基として、連盟会員の皆様とともに、正しい剣道の普及発展のために努めていく所存である。(受付日:令和7年5月22日)
*『令和版剣道百家箴』は、2025年1月より、全剣連ホームページに掲載しております。詳しくは「はじめに」をご覧ください。



