図書
『令和版剣道百家箴』
「わくわく感」を抱きながら剣道を学ぶ
剣道範士 横尾 英治(和歌山)
世界で羽ばたく剣道を目指して
日本の剣道が世界に普及していくなか、昨年、第19回世界剣道選手権大会が64カ国・地域の参加のもと開催され、その普及・発展は目覚ましいものがあります。今後、日本と諸外国の子どもたちが錬成大会などを通して交流を図ることができれば、将来に向けて世界における剣道人口の拡大、技術の向上、さらに国際理解なども進み、教育的にも意義深いものになります。次回、日本で開催される第20回世界剣道選手権大会では、是非、テレビ放映などで、剣道の魅力を広く発信していただくよう期待します。
「いつからでも、だれもが」学べる魅力ある剣道
以前は、剣道経験のない方から、「よく全日本剣道選手権大会をテレビで見るけれど、有効打突の判定がわからない、接近戦ばかりで面白くない」といった声が聞かれました。今は、有効打突がビデオで確認でき、さらに試合・審判規則の改正により、「一足一刀の間」で正々堂々と攻防が繰り広げられるようになり、「緊迫感と迫力のある試合で剣道への関心が高まった」という声も聞かれるようになりました。また、少年剣道の保護者の中には見るだけでなく、実際に自分も経験したいと思う人もおられます。このような人たちが「いつからでも、だれもが」気軽に剣道を楽しめる環境の整備が必要であります。
子どもに「わくわく感」を持たせる剣道の指導
剣道を志す人は、試合や段位取得など、高みを目指す人、健康増進や仲間との交流を目的に楽しむ人など、実に多様です。指導者は、一人一人のニーズに応える指導が求められ、特に、日本の剣道を背負う子どもたちには、「剣道が楽しい、いつまでも続けていきたい」という思いを抱かせる指導が求められます。私は小学生の頃、我が師より「剣は心なり」と礼法を重視し、切り返し、打ち込みなどを学ぶなかで、いつの間にか剣道の魅力に惹かれ、道場である神社の境内に喜び勇んで通ったこと、雪が積もった中で稽古をしたときの感動など、いつも「わくわく感」を抱きながら稽古に励んだ記憶が蘇ります。いま、少年剣道に求められるのは、試合の勝ち負けよりも、「目を輝かせて剣道をいつまでも楽しむ子ども」を育てることであります。この実現のための効果的な講習会の開催や、優れた指導の実態を有するクラブチームを紹介することなどを通して、いま求められている指導の在り方について周知することが喫緊の課題であります。
倫理・コンプライアンスの遵守
私は、日本スポーツ協会倫理・コンプライアンス委員会に属し、公認スポーツ指導者の不適切な指導に対し、その指導処分等に関わっていますが、残念なことに剣道の指導者がその対象となる事例も少なくありません。全日本剣道連盟では反倫理的な行為等に対し指導を行っていますが、いま必要なのは、それぞれの団体がガバナンスコードを作成し、それを徹底的にチェックすることで組織の適正化、健全化を図ることであります。「武道とは私利私欲を去って正義を貫く精神である。」この言葉を大切にしたいと思います。
学校部活動の地域での展開、剣道授業の充実
中学校では運動部活動の在り方が見直され、学校での部活動が地域の総合型スポーツクラブやスポーツ少年団活動等で展開されております。地域での展開は、幼児から高齢者を含めた多世代が同じ場所で稽古や試合が楽しめる、まさに「家族ぐるみの剣道」が期待され、この多世代の剣道が次の多世代に繋がっていけば、剣道愛好者の輪が一段と拡大していくことにもなります。
また、中学校の剣道の授業で指導者がいない場合、授業協力者としてその資格を有する外部指導者が授業に協力する制度がありますが、全国的にも十分に活用されていない現状にあります。一般の生徒に剣道の魅力を教え、それが本格的な剣道の学びへと繋げるためにも、この制度の充実についてスポーツ庁等の関係機関への働きかけが必要であります。
これからの剣道家へ ~剣道の特性を社会の中で生かす~
指導者が剣道に喜びを感じ、その喜びを子どもたちに伝える、そしてその子どもたちが将来指導者となり、子どもたちに剣道の喜びを伝える。これを繰り返すことにより、剣道の輪が広まっていきます。このことを実現していくのがこれからの指導者の果たすべき役割だと思います。
私たちは、稽古や試合を通じて集中力、洞察力、判断力などを学び、これが仕事や社会生活のなかで様々な苦難に陥ったときに大きな力となり、乗り越えられたことも多々あると思います。剣道界の中には国内外で大きく羽ばたいておられる有為な人がおられます。これがまさに、「剣道修錬の心構え」にある「自己の修養に努め、国家社会を愛し、広く人類の平和繁栄に寄与する」ことに繋がるものであり、剣道の存在価値を社会に知らしめることにもなります。
剣道は日本の伝統文化であります。文化は時代の趨勢に流されるものではありません。我々剣道家の真摯で誠実な学びがあれば、剣道はこれからも脈々と受け継がれていくと信じます。(受付日:令和7年5月30日)
*『令和版剣道百家箴』は、2025年1月より、全剣連ホームページに掲載しております。詳しくは「はじめに」をご覧ください。
を続けています。



