図書
『令和版剣道百家箴』
「剣道で学んだ心構え」
剣道範士 栗原 憲一(埼玉県)
戦後、剣道が復活して間もなく、剣道が盛んであった地元の村に剣友会が発足しました。10歳の頃、その寒稽古を見に行き、興味を持ち竹刀を握りました。それが長きに渡り地道に歩んできた剣道人生の始まりでした。中学、高校時代は指導者はおりませんでしたが、自分たちだけで熱心に練習をしてきました。
大学にて師範の大澤 衛先生は強く大きく、優しさがある先生でした。先生に稽古をお願いすると直ぐに息も絶え絶え、終わっても立っていることさえできず、全身全霊で掛かったことは終生忘れることはありません。卒業式に大澤先生から、「経文緯武」を心掛け、4年間剣道を続けてきた気力で立派な社会人になってくれ、出来る事なら剣道を続けてほしい、と言われました。また、本を読むことを勧められ、勝 海舟の『氷川清話』をあげられました。この本の中に登場する西郷 隆盛や山岡 鉄舟に興味をもち、引き続き長く心に残っております。大学の4年間は強い先輩、同輩、後輩に恵まれて過ごせたことは大きな財産になり、自信になりました。
卒業して社会人になり、家業の製茶業に就くと同時に、叔父が地元の狭山に「愛武館」という剣道場を建て、それに伴い、子供達の指導に関わりながら、一般の剣道愛好者との稽古を楽しみに、仕事と剣道との両立を継続してきたことが今の自分を作ったと思います。
昭和50年に全日本剣道連盟より「剣道の理念」と「剣道修錬の心構え」が発表され、自分の行っている剣道は人間形成の道であり、素晴らしい目的・目標があることに感激し、より自分の剣道を高めたいという気持ちになりました。雑誌を含めて、剣道の書物を読み、多くの先人の剣道に対する意識や修行を知り、いろいろな知識を求めました。
40歳を過ぎ、楢崎 正彦先生の剣道を求めて、東松山の「武蔵会」に入会し、月2回の稽古は必ずお願いし、気と胆の剣道、中心からの真面、捨身などについて、剣道生活の貴重な御指導を受けることができたのが、今の自分の精神的支柱になっています。
そして、第1回社会体育指導員講習会に参加し、目から鱗が落ちる思いで剣道の歴史や日本剣道形、審判法等剣道の知識を深め、埼玉県剣道連盟や全日本剣道連盟の行事に積極的に携わり、また諸外国の講習会にも行くことができました。そこで、外国の人の剣道を求める熱心な態度、ひたむきな求道心に触れ、日本の伝統文化である剣道が世界へ着実に広がっていることを実感した時、日本の剣道の歴史を踏まえた正しい普及発展に努めることが文化の継承につながり、これからの社会に貢献できると考えた次第です。
稽古や試合で互いに素晴らしい一本を求めて相手としのぎを削り合うことは、我慢すること、捨てることの勇気を育み、また真剣に努力することが社会生活を営む上での活力になると信じ、そして互いに切磋琢磨することの重要性を子供達に伝えていきたいと思っています。
人口減少の折、長年剣道を続けてきた中で剣道の良さ、魅力を今の子供たちや次世代に伝えていく指針となるのが、平成19年に全日本剣道連盟の制定した「剣道指導の心構え」です。その内容は「(竹刀の本意)剣道の正しい伝承と発展のために剣の理法に基づく、竹刀の扱い方の指導に努める。(礼法)相手の人格を尊重し、心豊かな人間の育成のために礼法を重んずる指導に努める。(生涯剣道)ともに剣道を学び、安全・健康に留意しつつ、生涯にわたる人間形成の道を見出す指導に努める。」です。この心構えで子供達から高齢者に至るまで、すべての年代の剣道愛好者がより良い生活の活力になるように指導することです。
剣道は人間を作る場であるならば、特に、将来ある子供達への指導には心して、我慢強く、おおらかに、正しく教えたいものです。
雨だれが石を穿つように、いつ結果が出るかわかりません。早急に結果を求め過ぎず、ゆっくりと待つ必要があります。それぞれの環境に育っている子供達には能力も性格もそれぞれです。剣道を始める時期も、幼年、小学低学年、高学年、中学生になってからと年代が違います。それらを踏まえて、性格のおとなしい気弱な子は剣道を学ぶことによって強くたくましくなり、気性が強く乱暴な子は剣道が本当に強くなることによって優しく思いやりのある子になる。そのように剣道を学ぶことが、強さと優しさを備え、誠実で人間味豊かな人生を歩むきっかけになって欲しい。そうした思いを持って指導にあたることが大切だと考えています。
「自分に厳しく、他人に優しく」を心掛け、常に自己の修養に努め、剣道を通じて社会貢献に微力ながら尽くす所存です。(受付日:令和7年5月27日)
*『令和版剣道百家箴』は、2025年1月より、全剣連ホームページに掲載しております。詳しくは「はじめに」をご覧ください。



