図書
『令和版剣道百家箴』
「少年指導から見えた剣道の課題」
剣道範士 末野 栄二(鹿児島県)
1 自己の修錬と指導者の育成
12歳で剣道を始めて60有余年経つが、高段になるにしたがって思いが強くなったことがある。それは、良き師・指導者に恵まれて剣道の修錬ができていることである。
昔の指導法では、細かなことは教えていただけなかった。技は見て覚えろ・盗め・工夫しろ・打突の機会は自分で覚えろ等。現在の指導法では考えられないことかもしれないが、不器用で身体能力の低い私は、このような指導法で、人よりも多く稽古をし、工夫することを覚えた。
試合に勝つ方法を教えていただいた記憶は残っていないが、技の指導と共に剣道に対する心構えなどの心法が、自分を大きくしてくれたように思う。
現在は、こと細かに教える指導者を良しとする傾向にあるが、果たして指導を受けた人に、その内容がどれだけ浸透しているかは疑問である。少年剣士や初心者については、細やかな指導が大切と思うが、中級者になってからは、求める心の育成が大切ではないかと思う。
「見取り稽古」の大切さは皆認識していると思うが、「聞き取り稽古」はどうだろうか。自分から聞きにいった内容は、自分の心にしっかりと残っている。五官(感)を最大限に活用しての修錬も大切である。
指導者育成は、昔からの課題となっている。文化は、正しく伝承し、正しく継承することが大切だと思う。試合に勝たせる指導者だけが素晴らしいのではなく、先人が残した日本伝統の剣道文化を後世に正しく伝えてくれる指導者こそ素晴らしいと、評価される剣道界であって欲しいと願っている。
2 剣道人口の減少
少年指導に関わって50年経つ。剣道を始めた動機は?とのアンケートには、①かっこいい ②礼儀作法の習得 ③心身の鍛練 が上位を占める。
試合に勝ちたいと思って入門してくる子供はほとんどいない。
剣道を始めた動機と指導者の目標とに大きな乖離がある団体が多いのではないか。剣道は、試合ができるまで、他の競技と比べて相当の時間を要する。勝利至上主義の指導者の意向によって、親子共々、毎週のように試合に参加するために遠出をしている団体が多い。時間的、経済的にも負担は大きい。
勝利だけを目指している指導者は、大会参加者の半数は1回戦で敗退し、その半分である全体の4分の3は2回戦で敗退する事実も直視する必要がある。
大会に向け、上位進出を目指しての心技体の向上は剣道奨励から当然必要であるが、試合に勝つためだけに目が向いていないだろうか。
昭和50年に制定された「剣道の理念」「剣道修錬の心構え」とは相容れない。
少子化の影響もあるが、このような風潮では剣道離れは益々拡大するのではないかと危惧している。
剣道の基礎をしっかりと習得させ、かつ「人づくり」を目指すことが、剣道人口を増やす方策と確信する。
3 剣道愛好者に伝えたいこと
生涯剣道を目指して欲しい。そのためには、良い指導者について基礎を学び、正しい剣道を身に付けることが大切である。
継続して剣道を修錬していくと剣道の奥深さを感じるが、段位・年齢にふさわしい剣道を身に付けると剣道の楽しさが増えてくる。
剣道は、難しいから楽しいのかもしれない。(受付日:令和7年5月25日)
*『令和版剣道百家箴』は、2025年1月より、全剣連ホームページに掲載しております。詳しくは「はじめに」をご覧ください。



