図書
『令和版剣道百家箴』
「剣道との出会いに感謝」
剣道範士 安部 美知雄(山形県)
社会人になってからの私の剣道修行の前半は、自衛隊の課業を終えた後のクラブ活動の仲間との稽古、或いは平日または休日を利用して勤務地所在の剣道場に出稽古に通い、地域の先生方に稽古をお願いするという活動でした。
後半は国民体育大会への出場及び幼少年指導をきっかけに、遅まきながら指導者として正しい剣道を後進に伝える責務を自覚・認識し、真剣に取り組むようになって現在に至っております。
一般社会人剣士として、類似の環境で修練を続けている先生方の参考になることがあればと思い筆を執りました。
国民体育大会出場の転機
出身地の山形に転勤になった私は、平成4年に山形県において開催される国民体育大会の強化選手に指定され、4年間、日帰り訓練・合宿(遠征含む)訓練に参加しました。国体出場を目標に集中して稽古できたことが、私の剣道人生を大きく変える転機になりました。
特に警視庁、神奈川県警での遠征合宿では一流選手との練習試合、稽古のお相手をしていただいたこと、また国民体育大会当日には成年2部の大将として出場し「優勝」したことが私にとって一生涯の財産となり最も充実した時期でありました。
この機会がなければ恐らく現在の私はなかったものと思います。
強化選手に選考していただいた当時の強化スタッフの先生方には心から感謝しております。
八段合格への道
平成15年の定年を機に、一念発起して八段に挑戦する目標を立てました。
社会人剣士の私が八段に合格するためには生半可な努力では合格できないと肝に銘じ、「基礎体力の強化」、「より多くの稽古を追求」の2点を目標に掲げて取り組みました。
私は上背もなく、またデスクワークが長く続いたこともあり、このままの体力では屈強な相手と立会うには不利と自覚し、平日の2時間程度を体力トレーニング(筋力・ジョギング等)に充て、基礎体力の強化を図りました。
この習慣は70歳代後半になった現在も続いており、足・腰が鍛えられ体幹・体軸が安定し、現在の日常の稽古にも生かされています。
また、国体出場を目標に勝つことを至上命題として稽古してきた時期もあり、剣道技術、精神面等見直す点があることを反省するとともに、極端に稽古量が減ったこともあり、より多くの稽古を求め上位の先生方を始め、幼少年、県警特錬生、刑務官、女性を含む一般青年愛好者・高齢者等の幅広い年代層との稽古の場に出向きました。
これが習慣となり、現在においても毎週のように各層の剣士と剣を交え、恵まれた環境で生涯剣道を実践できる喜びを感じております。
定年後の遅くに挑戦した私にとっては、目標を定めて臨んだことが良い結果に繋がったものと思っています。八段取得に挑戦されている先生方は、当然目標を立てて審査に臨んでおられることと思いますが、強い信念のもとに諦めずに精進されることを願うものです。
「剣道の理念」「生涯剣道」を実践しつつ日々精進
近年、日本を訪問する外国人観光客が急増し、訪問した外国人は、日本の素晴らしさについて「礼儀正しく、思いやりがあり親切でやさしい」「整然と列を作って並び、割り込んだりしない」「治安が良く安心」「町にごみがなく綺麗」「落し物・忘れ物をしても必ず戻ってくる」等々の感想を述べ、日本の国、日本人に対し良いイメージを持ち、「また来たい、将来住んでみたい」と好印象を持って帰国しているという。
一部に高齢者等を騙し、金銭を奪う詐欺事件等の非社会的行為があるものの、このような評価をいただく背景には日本人が持つ特有の倫理観、道徳心が社会形成に繋がっている証左であろうと思います。
昨今、剣道界においては剣道人口の減少、コンプライアンスが問題になっているところですが、剣道は「剣道の理念」を通じて豊かな人間を創ることにより少なからず社会形成に貢献しています。
小川 忠太郎先生は『剣道講話』の中で、「剣道の理念」を実践してゆけば人間形成につながる。その人間形成は「個人形成」と「社会形成」の二つ分けられる。剣道の指導者は、剣道を通じて豊かな人間を創り、社会形成に寄与する使命がある、と述べられております。
私は、まだまだ道半ばの修行の身ですので、小川先生の意を汲み、「剣道の理念」と「生涯剣道」を実践し、自己の修錬のみでなく、青少年に剣道の良さを伝えつつ、人間形成・社会形成に努めるべく、日々精進しております。(受付日:令和7年4月23日)
*『令和版剣道百家箴』は、2025年1月より、全剣連ホームページに掲載しております。詳しくは「はじめに」をご覧ください。



