
図書
『令和版剣道百家箴』
「剣道修業の心構え」
剣道範士 忍足 功(千葉県)
剣道の変遷
剣道の発祥は戦国時代に遡る。戦いの武器が刀となり、剣術が生まれた訳である。言うまでもないが、戦国の世であったため、戦で如何にして敵を倒すか、我が陣で如何に有利に戦いが展開できるかと言うことで、いわゆる殺人刀であったと言えるであろう。
それから時代を経て剣術から剣の道に理を求め、人を活かす術を探究して活人剣になったということだと思う。
現代ではその剣道に一定のルールを定めて競い合う中で、礼法を始め、気迫・勇気・決断・間合・目付・残心等々を学び取り、究極は人間形成に導こうとするものである。
日々のたゆまぬ努力
世の中は一般社会、スポーツ界、又剣道界にあっても、時代の背景もあるのか、栄光の姿ばかりがクローズアップされがちに感じる。勿論、頂点に立つということは至難の業であり、大いに称賛されてしかるべきであろうが、同時に大切なのはそこに至るまでの努力、これも取り上げて欲しいと思う。皆、並々ならぬものがあったに違いないのだ。「ローマは一日にして成らず」である。やはりこの道に生きると志を立てたら、日標を持ち、不断の努力、小さな身近な目標から、更に大きな目標を立て、そこに向かって地道に努力をすることが肝要であり、忘れてはならないところである。そして剣道人としての世界のみならず一般社会に於いても、「流石は」、「立派な人だ」と言われるような人間にならなくてはと思う。
平常心
現代社会、ある意味、複雑とも言えるこの世の中で、正直、生活をしていくのには色々な葛藤が多いのも事実であろう。剣道の修業を通じて、懐の深い、柔軟性のある対応が、どんなことに於いても出来るよう心掛けるべきであろう。
自分に自信がある訳ではないが、大災害の多発、難しい社会、人間関係の狭間で生き抜いていく為には、事に当たって如何に平常心で対応できるか、であると思う。腹の座った人間に近づけるよう、心すべきではなかろうか。気負わず、力まず、謙虚に、そして冷静に。
魅力ある剣道
剣道の醸醐味、真骨頂は、「攻め合いの中で、攻め口を探し、相手を攻め崩して打ち破るところ」にあると思う。勝負となれば、勝ちか負けかが原則であるから、勝ちを求めるのは当然だが、過度な勝利至上主義の影響からか、近頃、攻め合うのではなく、どうしたら安全かを第一に考える傾向が見受けられるのは残念である。やはり攻め崩して打ち破る決断、勇気、覚悟、そしてある面、潔さが大切なところではないだろうか。
少子化やスポーツの多様性から来る剣道人口の減少問題は、喫緊の課題でもある。剣道の将来を考えた時、避けては通れない問題である。武道という立ち位置をしっかり踏まえ、「如何にしたら魅力ある剣道を発信できるか」ということを皆で考える時でもあろう。剣道は決して派手な種目とは言えないかも知れないが、他のスポーツと違った意味で、メディア対応等も一方策として、その特長を広報し、理解者を増やす手立てを考えねばと思う。(受付日:令和7年4月24日)
*『令和版剣道百家箴』は、2025年1月より、全剣連ホームページに掲載しております。詳しくは「はじめに」をご覧ください。