
アンチ・
ドーピング
他人事ではないドーピング違反 -「医師の言葉」を過信せず、自分の身は自分で守ろう(コラム52)
2026年6月、水泳の学生日本選手権における、アンチ・ドーピング規則違反の事例が開示されました。検出されたのは、禁止物質である「ツロブテロール」です。詳しい内容は日本アンチ・ドーピング機構(JADA)のウェブサイトで公開されていますが、これは私たち剣道界にとっても決して他人事ではありません。
ツロブテロールは、気管支を広げて呼吸を楽にする「ベータ2作用薬」の一種です。交感神経を刺激して競技力を高める可能性があるため、アンチ・ドーピングのルールでは常に使用が禁止されています。喘息治療用の吸入薬など、一部の成分・用量に限り例外的に認められているものもありますが、それ以外の用法や成分は一切認められていません。
今回の事例では、選手が長引く咳のために受診したクリニックで、肌に貼る「ツロブテロールテープ(貼付剤)」を処方されました。コーチに勧められたクリニックであり、医師からも「オリンピック選手の診療経験がある」と説明されたため、選手は安心しきってしまったようです。しかし、実際には禁止物質の確認が行われないまま処方・使用され、結果として大会の成績剥奪と4ヶ月間の資格停止処分が下されました。
実は、このテープ剤による違反は過去にも複数回発生しています。医療現場では「貼るだけの軽い薬」として比較的安易に処方される実態がありますが、アンチ・ドーピングに詳しい者の中では禁止物質として有名です。「実績のある先生だから」「簡単な薬だから」という思い込みが、取り返しのつかない事態を招いてしまいました。
ドーピング違反で最も重い不利益を被るのは、他ならぬ選手本人です。指導者や選手、そして保護者の皆様にお願いしたいのは、医師の言葉を無条件に信じるのではなく、処方された薬が安全かどうかを必ず自分自身で確認する習慣をつけることです。 Global DROという検索サイトの使用や、「スポーツファーマシスト(公認薬剤師)」への相談など、正しい根拠を持って身を守る意識を剣道界全体で高めていきましょう。
アンチ・ドーピング委員会
委員 濱井彩乃
* この記事は、月刊「剣窓」2026年8月号の記事を再掲載しています。



