図書
『令和版剣道百家箴』
「剣道を通して生き方を学ぶ」
剣道範士 石田 健一(大阪府)
はじめに
現在の防具を着けての剣道は、本来、武士が刀を持ち敵を倒す剣術から始まっている。
しかし、平和な時代になると共に剣術から剣道に変わり、また防具・竹刀の工夫により飛躍的に剣道が発展したが、新しいスポーツの出現、また少子化により剣道人口が減少したというのが現状である。
また、試合においても打たれずに打とうとする意識が強いのか、受けながら間合いに入り技を出すというような形が多く見受けられるのが残念である。
1.剣道の特性
現在の剣道は、竹刀を持ち防具を着け安全に競技出来るようになったとは言うものの、元々が殺し合いから始まっているので、命をかけて技を出すというような、レベルの高い究極の気迫を身に付けることが出来る。
また、何事においても真剣に取り組むという姿勢が身に付き、仕事面等においても良い影響が出る。
私が初めて日本武道館での全国警察官大会に出場した時、余りの気迫に「竹刀を持って打ち合っているが、刀で切り合っているのと変わらないな」と感じ、その後の稽古にも真剣に取り組めたのを覚えている。
2.少年剣道の問題点について
剣道発展のため、剣道界の次代を担う少年の育成は不可欠である。
私も全日本剣道選手権大会での優勝後、剣道への恩返しの気持ちで少年指導に携わり今年で43年目になるが、子供たちが剣道の基本を身に付ける前に試合をするため、なかなか基本的な動作が身に付かないのを目にしてきた。
試合は子供たちの練習意欲を増すため、気迫のレベルを上げるため、技を向上させるため、負けて悔しい思いを経験し、それらを乗り越えるための精神力を身に付けるためにも間違いなく必要である。しかし、あまり早くから試合をさせると、負けないようにという意識が強くなり過ぎ、結局基本から外れていく。
大きくなってから悪い所を直せばいいと言う人もいると思うが、「三つ子の魂百まで」のことわざ通り、小さい時に身に付いた悪い癖はなかなか直すのは難しい。
また、指導者が間違った指導をする場面も見受けられた。
剣道には「師弟同行」と言う言葉があるように、指導する側も子供に正しい基本動作を教えつつ自身も学びたいものである。
おわりに
私は、中学生(13歳)から剣道を始め現在(76歳)に至っているが、当初から剣道は素晴らしい、こんな素晴らしいものはないと言われ続けてきた。
本当かなと疑問に思いつつも、剣道の上達に繋がるかもしれないと思い、今まで、サッカー、少林寺拳法、卓球、バトミントン、フェンシング、ボクシングその他多くの競技を経験したが、言える事はやはり剣道は素晴らしいという事である。
剣道以外にも素晴らしい武道というものは沢山あるが、剣道は間合いがあるだけでなく、竹刀を持ち打ち合うので、さらに体力差の影響が少なくなり、努力次第で誰でも強くなることが出来る。
私も、長い間剣道を続け気付いたことがある。それは、剣道を習う過程で生き方も習ってきたという事である。勿論、指導者により大きな差があると思うが、目標に向かう努力のやり方、その過程で味わう苦しさの乗り越え方、ものの考え方等、多くの人生に役立つことを学んできた。
また、心の持ち方も沢山指導を受けた。その最初は、剣道特練生になり初めての稽古でふらふらになっている時、先生から「苦しいか」と聞かれ「苦しいです」と答えると、「苦しいと思うから苦しいんだ」と言うものだった。言われた時、この先生は何を言っているのかなと思ったが、後でよく考えてみると、「確かに稽古途中、苦しいと思っていた。苦しいと思わなければいいのか」と考え、頭の中で今の状況よりもっともっと苦しい事を想定し、今の苦しい状況と比べてみた。当然想定よりも楽である。楽だと思うと、苦しい事は苦しいが何とか頑張れた。
今でも苦しい時、自然とそのやり方で対処でき、前向きの気持ちになれる。剣道のお陰、先生のお陰である。
若い頃で勝負に勝つ事のみを追いかけていた時、「剣道で一番大切な事は続けるという事」「勝った負けたは小さな事」と指導を受けた。その時は勝つことが一番大切な事ではないのかと思ったが、勝つことも大事だが負けた時こそ飛躍のキッカケになる。要は試合において目一杯の気迫で、精一杯試合をすれば良いのであり、勝負の勝ち負けは後からついて来る。そして、負ければなぜ負けたかを反省し、稽古で負けた原因となった所を直して行けば間違いなく強くなる。
最近テレビで「昭和100年」という番組を見た。昭和に置き換えると令和7年が100年目らしい。番組を見ていると一瞬小学生らしい子供達が、広いグラウンドで剣道の素振りをしている映像が出たが、昔は剣道で人間教育をしていたのが良く解かる。
小さい時から剣道を通して心身を鍛えると共に、生き方、考え方を学べば、国に役立つ多くの人材が育つことは間違いない。
皆で力を合わせ、もう一度昔のように剣道を発展させたいものである。(受付日:令和7年5月12日)
*『令和版剣道百家箴』は、2025年1月より、全剣連ホームページに掲載しております。詳しくは「はじめに」をご覧ください。



