図 書
現代剣道百家箴
剣道の奥義について
奥川 金十郎(剣道範士八段)
奥義は頭では得られない。考えてもわかるものでもなければ、はなしを聞いてそれと理解出来るものでもない。口に云えない、書きあらわす事の出来ない理外の理である。この理外の理を学ぶ事が奥義に達する過程である。
それではどうすればよいか、ただひたすらに修行する以外に道はない。だが行ずる丈けでは目をとじて歩くのと同じで、ころぶだけである。目を明けて、ふりをかまわず歩くうちに、何時の日にか到達した処が奥義である。では奥義に入るには、具体的にどうすればよいか、常に之でいいのか、これでいいのかと、工夫を重ね人の教えを守る。頭を使はないで、身体全体で剣道をやる、即ち体得するという考え方で、より積極的に剣道に没頭すればよい。さすれば、その苦行の度合に応じ、自然に理解が深まるのである。「只一向に念仏せよ」「只一向 に剣道に精進せよ」それこそが仏法にも、剣道にも深く入るための鉄則である。
悟りとは、適応性が高度に高まって何事にも調和出来る状態であり、苦しい修行から逃げれば逃げる程、庇えば庇う程力が弱まる事をしらねばならない。常に強い決意で身体をはって繰り返し、繰り返し稽古をやる。寝食を忘れてやる。頭を使うなと云っても、他人の稽古に学ぶとか、自ら工夫するとか、技心ともに幅広く、深くをモットーに精進し、常に脚下照顧、真実を追及し、生涯をかけ求道へ専心することが肝要である。
私は今後共、只一途に後進の為に踏み台の役割を果そうと思っている。
*現代剣道百家箴は、1972(昭和47)年、全剣連20周年記念事業の一つとして企画された刊行物です。詳しくは「現代剣道百家箴の再掲載にあたり」をご覧ください。