
アンチ・
ドーピング
Enhanced Games(エンハンスト・ゲームズ)をご存じですか?
皆さんは今話題の「Enhanced Games」がどのような競技大会かご存じですか。
エンハンスト・ゲームズとは、来年5月にラスベガスで開催予定のドーピング容認の国際競技大会のことです。最大の特徴は、これまで世界アンチ・ドーピング機構(WADA)がアンチ・ドーピング規定で禁止してきたドーピング行為を容認するという点と、「全てのアスリートに報酬を支払う」として莫大な賞金(出演料?)が出るという点でセンセーショナルな大会演出をしています。
具体的には、エンハンスト・ゲームズでは、陸上、水泳、重量挙げの3競技が実施され、ステロイドやヒト成長ホルモンなどの禁止薬物等の使用を容認し、各種目の優勝者には25万ドル、世界記録を破った選手には100万ドルのボーナスが与えられるようです。
この大会のHPをみてみると、次のように魅力的な言葉で綴られています。
“THE FUTURE OF SPORTS IS HERE スポーツの未来はここに”
「私たちは、科学、イノベーション、そしてスポーツを通して、超人的な人間性を再定義するという使命を担っています。エリート・スポーツの新時代の幕開け。アスリートたちが限界に挑戦し、記録を塗り替え、スポーツの未来を再創造する大舞台です」
まるでテクノロジーとスポーツの融合で未知の可能性と未来がみえてきそうな言葉が躍っていますが、「スポーツの精神」や「スポーツの価値」を重んじるアンチ・ドーピングの観点からすると、極めて危険な未来も想定されます。薬物使用に限らず、遺伝子ドーピングに繋がる遺伝子編集技術が、十分な倫理的議論もなくエンハンスト・ゲームズで人体に応用されてしまう可能性も憂慮されるでしょう 。遺伝子治療は既に実用化されており、まさに改変された人間のためのスポーツ競技(スポーツではなく見世物?)とも考えられます。
今年6月には、WADAの会長が、米当局に対して「アスリートの健康とスポーツの純粋さのために、これを止めなければならい」として開催阻止を要請しました。新聞各紙も様々に取り上げ、中には、エンハンスト・ゲームズはアスリートを破壊に導く《人体実験》でしかないとの批判もあります。
「Enhanced Games」は、スポーツの未来か、それとも逸脱か。スポーツをめぐる社会的な倫理観や「スポーツとは何か」という本質がいま問われています。
アンチ・ドーピング委員会
委員 小田佳子
* この記事は、月刊「剣窓」2025年11月号の記事を再掲載しています。



