
アンチ・
ドーピング
「ニンニク注射」とドーピング違反のリスク 〜静脈注射に関する注意喚起〜(コラム48)
近年、疲労回復や肌荒れ改善などを目的として、自由診療で「ニンニク注射」を受ける方が増えています。この「ニンニク注射」という名称は、主成分であるビタミンB1の誘導体により、投与時にニンニクのような匂いを感じることに由来します。実際にニンニクが含まれているわけではありません。
先日、テニスの全米オープンダブルス優勝者であるマックス・パーセル選手が、ドーピング規則違反により、自主的に暫定資格停止を受け入れたというニュースが報じられました。これは、本人の認識がないまま、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)が定める基準(12時間あたり100ミリリットルを超える静脈点滴)を上回るビタミン注射を受けたことが原因とされています。著名なアスリートでさえこのような事例が起きることからも、アンチ・ドーピングに関する正しい知識と慎重な判断が求められます。
「ニンニク注射」に含まれるビタミン自体は、WADAの禁止物質リストには該当しません。しかしながら、問題となるのはその投与方法です。WADAの規定では、治療目的であっても、競技会期間中における一定量(12時間で合計100ミリリットル超)の静脈内点滴または静脈内注射は「禁止される手技」に該当します。つまり、「ニンニク注射」を点滴で行った場合、その投与量によってはドーピング違反となる可能性があります。
さらに、使用される製剤の正確な成分についても十分な確認が必要です。医療機関によっては、禁止物質や監視対象成分が含まれている場合があり、「うっかりドーピング」に繋がるリスクも否定できません。
ドーピング違反は、これまでの努力を水泡に帰すだけでなく、剣道という武道の信頼性と公正性を著しく損なう行為です。選手一人ひとりが正しい知識を持ち、慎重に行動することで、クリーンで公正な競技環境を守っていきましょう。
アンチ・ドーピング委員会
委員長 末吉 孝一郎
* この記事は、月刊「剣窓」2025年8月号の記事を再掲載しています。