公益財団法人 全日本剣道連盟 All Japan Kendo Federation

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剣道中央講習会中止に伴う講習内容の掲載 ―第3回―

 第55回剣道中央講習会は、2020年10月8日(木)・9日(金)、日本武道館研修センター(千葉県勝浦市)で開催予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、已むなく中止となりました。

 本講習会は、全剣連と各都道府県剣道連盟および全国組織剣道関係団体との意思の疎通を図るとともに

  1. 全剣連は「公益財団法人」に移行し、新たなスタートをすること
  2. 「対人稽古再開に向けた感染拡大予防ガイドライン」に関連する事項

を含め、ガイドラインを踏まえた剣道の審判法や稽古及び指導のあり方等を説明・講習する計画でしたので、これらの内容に関連する資料を4回に分けて掲載します。
 *この記事は、月刊「剣窓」2021年1月号と2月号に掲載した記事を転載しています。

第3回 ガバナンス・コンプライアンス〜全剣連の取組み〜

専務理事 中谷 行道

初めに

 ここ数年、スポーツ界に様々な不祥事が発生しました。

 剣道界でも居合道称号段位審査に関する金銭授受に続き、体罰・暴力問題が数多く起こっており、報道もされています。こういったことが続くと、剣道、居合道、杖道を敬遠する人が増えかねません。少子化、人口減少で初段合格者が減少しているうえに(平成元年約6.2万人、30年度は3.3万人)、コロナの影響もあって、令和2年度は初段合格者数が激減する可能性が高いと見込まれます。こんな中で不祥事が発生すると、その悪影響は計り知れません。

 このため、全剣連は「ガバナンスの強化」・「コンプライアンスの徹底」により、不祥事を防止し、社会から信頼される剣道界となるよう全力を挙げて取り組んでいます。指導的立場にある皆さんは、本資料を参考に、各都道府県剣連で先頭に立ってご指導されるようお願いします。

公益法人への移行

 全日本剣道連盟(以下「全剣連」)は、内閣府公益認定等委員会の答申を経て、内閣総理大臣から公益財団法人移行の認定を受けました。これにより9月16日をもちまして、公益財団法人として新たなスタートをいたしました。

 全剣連は、昭和27年(1952年)に発足し、昭和47年(1972年)に財団法人として認可を受けました。その後平成20年(2008年)の法人法改革により、すべての財団法人は公益法人とするか、一般法人とするかの選択を求められましたが、全剣連は、比較的自由な立場で事業が行える一般財団法人を選択、平成24年(2012年)に一般法人に移行し、今日に至りました。

 全剣連は一般財団法人移行に際して次の段階では公益法人に進むことも視野に入れていましたが、平成29年ころには公益法人に移行する条件も整ったこと、また、スポーツ団体を巡る環境の変化からガバナンスの強化も重要になったことなどから、公益法人申請を行うこととしました。

 申請後、関係当局からいくつかのご指摘、ご指導を受けるとともに、新型コロナウイルス感染症の問題などが発生したため、当初目標としていた本年春の移行予定からはずいぶん遅れましたが、特に大きな問題もなく認可を得ることができました。これも関係各位のご支援、ご指導の賜物と心より感謝申し上げる次第です。誠にありがとうございました。

公益法人として

 さて、公益財団法人になってこれまでと何が変わるかということです。財務的には、預貯金利子について非課税となるなど、税務面での特典があります。また、全剣連に寄付をしていただける場合は、一定の手続きを行っていただければ、寄付金について寄付者は所得控除が受けられます。

 しかし、最も重要なことは、公益法人となり、全剣連の信用力が一層増すことに加え、その反面、責任も大きくなることです。

 全剣連はこれまで、「剣道等の普及振興、『剣の理法の修錬による人間形成の道である』との剣道理念の実践を図り、もって、心身の健全な発達、豊かな人間性の涵養、人材育成並びに地域社会の健全な発達及び国際相互理解の促進に寄与すること」を目的として(定款第3条)、事業運営を行ってまいりました。公益法人への移行後もこの目的に変わることなく、日本の伝統文化である剣道の次世代への継承に、公益法人として責務を果たしていく所存です。

スポーツ・インテグリティ

 その責任を果たしていくためには、ガバナンスの強化が必要です。コンプライアンスの徹底も求められています。全剣連は、公益法人として、これらを図りつつ、目的の達成に努めてまいる所存です。

 ガバナンスの強化、コンプライアンスの徹底は、公益法人の責務というだけではありません。

 近年、スポーツ界において、多くの不祥事が発生しました。そうした中、鈴木大地スポーツ庁(前)長官は、「スポーツ界全体を挙げ、旧弊を取り除き、スポーツ・インテグリティを高めていかなければならない」というメッセージを出しました。そのインテグリティとは、図のとおり、ガバナンス、コンプライアンス、モラルを含む広い概念としています。

スポーツ・インテグリティ

 要するに、スポーツの中央団体(NF:National Federation 剣道で言えば全剣連)としても、ガバナンスの強化、コンプライアンスの徹底が求められているのです。

ガバナンスとコンプライアンス

 では、ガバナンスとは何でしょうか。また、コンプライアンスとは何で、双方の関係はどういったものでしょうか。

 ガバナンス(governance)は、「統治・支配・管理」という意味です。スポーツ庁は「適切な組織運営」としています。「健全な組織運営を目指す、団体自身による管理体制」ということもできます。
 ところで、スポーツは近年多くの注目を集め、関係する人たちの輪が広がってきています。このため、スポーツ団体の動きに大きな注目が集まり、影響は社会全体に広がっています。こうした影響力の大きさから、スポーツ団体は大きな責任を持つようになりました。
この社会的責任を果たすためには、社会から信頼されるスポーツ団体の運営を行っていかなければなりません。ガバナンスとはそうした信頼を得るための方策であり、団体の組織の権限や責任、あるいは相互牽制関係を明確にしたり、情報公開等により対外的な説明責任を果たしたりすることとも言えます。

 一方、コンプライアンス(compliance)とは「法令順守」ということですが、「法令」だけでなく、規則、ルール、社会常識や良識なども守るという意味です。このコンプライアンスを維持・改善するための「管理体制」がガバナンスです。したがって、ガバナンスを強化していくことがコンプライアンスを強化することにもつながります。

 全剣連は、剣道等の統括団体として、また公益法人として、ガバナンスの強化、コンプライアンスの徹底を図って行かなければなりません。

スポーツ団体のガバナンスコード

 これまで申し上げたことを背景に、スポーツ庁は、令和元年6月10日に、図の通り13の原則からなるスポーツ団体のガバナンスコードを制定し、中央団体への順守を指示しました。各スポーツ団体はこの13の原則、それぞれ細目がありますので、合計43の項目を守っていかなければならないのです。

スポーツ団体のガバナンスコード

 また、これは形式的なものではなく、各スポーツ団体は、毎年自己審査を行い、結果を公表することが求められています。さらに、日本スポーツ協会(JSPO)や日本オリンピック委員会(JOC)など統括団体は、4年に1度各団体を審査し、その結果を公表することになっています。なお、全剣連は2020年に統括団体の審査を受けています。

 ただ、スポーツ団体のガバナンスコードは組織、すなわち全剣連に求められているものです。本稿では、ガバナンスについてこの程度とし、以降皆さん方に関係の深いコンプライアンスについてご説明します。

コンプライアンス・倫理

 英語のコンプライアンスは、受け入れること、迎合、人の良さなどという意味です。これらから、Legal Compliance又は Complianceで法令遵守として使われています。しかし、巷間言われているコンプライアンスは、法律を守ることだけではありません。一社会人として、我々は法律を守ることは当然です。しかし、全剣連としては、当たり前のことですが、法律だけでなく、全剣連の定款・規則も守ることを求めています。

 また、それらに止まらず、公益法人として、また、日本の伝統文化である剣道の次世代への継承の責務を有する剣道等の統括団体として、モラル・道徳・社会良識も大切にし、社会からの信頼を得たいと考えます。すなわち、全剣連のコンプライアンスは、法令や規則等を守ることは当然で、モラルや社会良識も大切にするという、倫理、道徳面も含んでいることを理解して頂きたいと考えます。

コンプライアンスの重要性

 コンプライアンスは重要です。不祥事が起こった場合、組織・団体・個人に重大な影響を与えます。企業ではコンプライアンスに反する様々な事案が発生しました。例えば不正会計や産地・データの偽装、情報流出、衛生管理等で、最悪の場合で、倒産に至った事例も少なからずありました。

 スポーツの場合も多くの不祥事が発生しました。スポーツ団体の場合不祥事で直ちに破綻ということはありませんでしたが、不祥事が起こると多くの人がそのスポーツを敬遠あるいは冷たい視線で見て、一気に評判が悪化します。

 そして一生懸命そのスポーツに取り組んでいる人の誇り・プライドが傷つくとともに、やめる人が出る一方、新規に始める人がいなくなり競技人口が減少します。競技人口が減ると、登録料等の収入減少、企業スポンサーの撤退等で中央団体の運営に悪影響を及ぼして、前向きな事業ができず、さらに衰退という負のスパイラルが生じます。

 不祥事を起こした個人にとっても地位や名誉を失い、ケースによっては民事・刑事の責任を取らせられることもあります。したがって、不祥事防止、コンプライアンスは極めて重要で、全剣連は、決意をもって不祥事一掃、コンプライアンスの徹底に取り組んでいます。

全剣連の取組み

 全剣連は、平成30年11月、コンプライアンスの徹底、不祥事防止の趣旨から制度を整備しました。なお整備に当たって全剣連は、コンプライアンスには倫理や道徳も含むと考え、「倫理」という言葉を使用していますのでご理解ください。

 まず「倫理規定」を制定しました。全剣連のコンプライアンス・倫理に関する基本を定めた規程です。また「倫理委員会」を設置しました。コンプライアンスを徹底する施策を企画立案推進する役割であり、コンプライアンスの中核となる委員会です。委員は、専務理事、総務担当理事2名、弁護士(外部委員)で構成しています。

 加えて「全剣連倫理に関するガイドライン」を制定しました。全剣連会員にとっての行動倫理であり、最も重要です。

 相談・苦情窓口も設置しました。この2年間で、合計66件の通報や報道があり、全剣連としてはこの件数は必ずしも少なくないと、非常に厳しくみています。

 全剣連の名誉を傷つけたり、コンプライアンス違反があった場合、これを罰するものとして綱紀委員会規則があります。いわゆる懲罰規定ですが、違反行為に対し、除名、会員資格停止、称号段位はく奪、称号段位停止などを課します。これも改正しました。

 以上が全剣連のコンプライアンスに関する態勢の概要です。

「全剣連倫理に関するガイドライン」

 ※ガイドラインの全文は以下からPDFでご覧いただけます。
  → 一般財団法人全日本剣道連盟における倫理に関するガイドライン-改定版-

(前文)

 「全剣連倫理に関するガイドライン」の前文では制定趣旨を説明しています。全剣連は「剣道は剣の理法の修錬による人間形成の道である」という理念を標榜しています。剣道修錬の心構えも制定し、剣道人に心がけるよう慫慂しています。

 ところが居合道称号段位審査に関する金銭授受が発覚しました。その他にも、暴力や体罰が発生しています。このため、改めて倫理意識を啓発する必要があると判断し、ガイドラインを制定しました。

 対象者はすべての剣道関係者ですが、特に役員・指導者など責任ある方々に徹底することを目標としています。

(反倫理的行為:暴力、ハラスメント)

 ガイドラインの一番初めは、反倫理的行為、中でも暴力、パワー・ハラスメントの禁止です。前述の相談・苦情窓口に対する通報、その他報道、他機関からの通知など、この2年間で66件の事案がありましたが、このうち3分の1が体罰を含めた暴力でした。

 その中でも大変残念なのが指導者による暴力です。指導者による暴力は、剣道界全体に大きな影響を与え、本人もすべてを失うことを自覚してもらいたいと思います。最近の暴力問題で、殴るには殴る理由があるといった人がいました。殴る理由は存在しないというのが今の世の中であり、全剣連の考えです。殴られた本人が納得しようがしまいが、暴力は暴力、許されない時代なのです。暴力は身体のみならず心を傷つけるものといえます。一方で剣道は「人間形成の道」であり、「礼節をとうとび」、「相手の人格を尊重し、お互いを敬う」ものです。だから、剣道と暴力は全く相容れないのです。

 剣道は暴力を昇華した武道です。そこに暴力があろうはずがありません。

 また暴力の結果、個人には刑事・民事の責任が発生します。中には「剣道では師範・先生を大切にする、だから表ざたになることが少ない」と思う人が多いかもしれません。しかし時代は変わってきています。権利意識も強まってきています。その上、SNSなどで急速に広まるリスクもあります。剣道も例外ではなく、体罰・暴力は必ず表面化します。現に通報や報道で多数の事案が明らかになっています。暴力は、大きな責任を負うことになると徹底していただきたいと思います。

 ところで、暴力は個人にとどまらず剣道界にとっても大きな影響を与えます。全剣連としては、役員・指導者層が度を越した暴力をふるった場合、称号段位はく奪を原則として対応します。暴力には何も良いことはありません。常に冷静に行動し、絶対に暴力をなくすよう、指導してください。

(反倫理的行為:セクシャル・ハラスメント)

 続いて、いわゆるセクハラです。剣道にとって女性の存在はますます重要になっています。初段合格者のうち3分の1は女性です。女性から忌避されたら、指導者の資格はありません。もっとまずいのは、セクハラです。セクハラの線引きがわからないという人もいますが、ともかく、受け止める側が不快に思ったら、それがセクハラです。必要以上に委縮することはありませんが、稽古だけでなく、懇親会などでも言動には注意するように指導を願います。酔っぱらっていたでは済まされない時代です。

(反倫理的行為:その他)

 令和元年11月の改正で「差別の禁止」を加えています。併せてご確認をお願いします。

 アンチドーピングも大変重要です。全剣連ホームページ等で知識を得るようご指導お願い致します。薬物は言わずもがなです。

 指導的立場にある者と選手の関係―これは指導的立場にある者への戒めです。初めに言ったパワハラ禁止と同じ趣旨ですが、指導者は強い立場にあることを自覚し、相手の立場を尊重するように指導者を指導してください。

 次の項目の審査に関する金銭授受は、先の居合道に関する反省から加えました。弟子を指導して謝礼を得たり、交通費を受け取ったりすることをまで禁止する趣旨ではありません。全剣連会長が授与する称号や段位を利用して金銭を得ることは全剣連を侮辱していることです。絶対に許されません。また、金銭を勝手に送ってくることも考えられます。この場合では「返した」は許されません。必ず申告するよう徹底してください。

 その他、不適切な経理処理にも言及しています。都道府県や地区の剣道連盟でお金にかかわることがある場合、適切な経理処理を行うよう努めてください。

 ところで、連盟の役員・指導者は殆どがボランティアです。無償で貢献しているのだからと、経費の使用について、多少規律が緩むことがあるかもしれません。しかし、規律に反する経費の使い方をしてはなりません。無給であろうがなかろうが、お金は適切に扱わなければならない。そうでなければ不正行為として断罪されることもあり得ます。

 また、選手役員選考の基準を定める必要があります 。これは全剣連等の団体・組織の問題ですが、スポーツ仲裁機構では団体側の負けが意外と多く、そのうちの多くは規程や基準がなかったり、運用がまずかったりということです。我々も自戒したいと思います。

 なお、全剣連では、最近「審判員選考規則」を策定しました。引き続き選手選考規程の策定に取り掛かっています。制定後に改めて通知します。

 最後は、安全・事故防止と一般社会人としての規範です。剣道は比較的安全な武道との自負がありますが、引き続き、安全・事故防止に努めてください。この点は一歩誤れば暴力ともとられかねないので、そういった点にも留意してください。

 剣道人、特に指導者は、日常生活においても社会規範を強く意識する必要あり。特に反社会的勢力との接触には十分留意ください。

 なお、倫理に関するガイドラインには盛り込んでいませんが「対人稽古再開に向けた新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」を発出していることはご存じのことと思います。この他「審査ガイドライン」、「大会ガイドライン」も出しています。皆さん方にあっては、剣道からクラスターを発生させないよう、ガイドラインに沿い、万全の留意をもって稽古等を実施していただくようお願いします。

ガイドラインに対する違反行為があった場合

 綱紀委員会規則は全剣連の「懲罰規程」です。違反行為があった場合は、この規程に基づき称号段位はく奪・停止、会員除名・停止など課すものです。

 罰することが目的ではないが、違反行為があったら、再度起こさないために適切に処分してゆくという考えです。具体的な運用ですが、通常は都道府県剣連から申立てがあって、会長の諮問により全剣連綱紀委員会が審査・答申、答申に基づき、会長が処分します。処分に当たっては理事会の承認も必要です。

 しかし、この規則では、都道府県剣連の申立てがなくても、おかしいと考えたら、全剣連・諮問予備審査会が調査し、綱紀委員会に諮問、答申を得て会長による処分が可能です。例えば、役員・指導者の過度な暴力があった場合で都道府県剣連が甘い対応を行った場合、全剣連は自ら取り上げ、称号段位はく奪など厳しい対応を取ることもあります。

 なお、これまで各都道府県剣連では懲罰規程があまり整備をされていなかったようですので、整備するよう依頼しています。

 以上、全剣連のガバナンス強化やコンプライアンスの徹底についての取組みをご説明しました。各連盟に置かれては、引き続き、適切な指導等を行われることを強くお願いします。

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