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剣道中央講習会中止に伴う講習内容の掲載 ―第1回―
第55回剣道中央講習会は、2020年10月8日(木)・9日(金)、日本武道館研修センター(千葉県勝浦市)で開催予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、已むなく中止となりました。
本講習会は、全剣連と各都道府県剣道連盟および全国組織剣道関係団体との意思の疎通を図るとともに
- 全剣連は「公益財団法人」に移行し、新たなスタートをすること
- 「対人稽古再開に向けた感染拡大予防ガイドライン」に関連する事項
を含め、ガイドラインを踏まえた剣道の審判法や稽古及び指導のあり方等を説明・講習する計画でしたので、これらの内容に関連する資料を4回に分けて掲載します。
*この記事は、月刊「剣窓」2021年1月号と2月号に掲載した記事を転載しています。
第1回 新型コロナウイルス感染症対策(インフルエンザを含む)
医・科学委員長 宮坂 信之
はじめに
新型コロナウイルス感染症は世界的に猛威を奮っています。日本では、指定感染症に分類されています。
本稿では、新型コロナウイルスとその感染症対策を紹介します。これは、原則としてインフルエンザ対策にも応用できます。
1.新型コロナウイルスとは?
新型コロナウイルスの大きさは、1mmの約1万分の1しかありません。
これまでに知られているコロナウイルスは、風邪も引き起こしますし、SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)などの原因ともなります。
今回、問題となっているのはコロナウイルスの新種です。正式には、このウイルスはSARS-COV2、それによって起こる感染症はCOVID-19と呼ばれています。
2.感染はどのように起こるか?
1つは飛沫感染と呼ばれ、くしゃみや咳によるウイルス粒子入りの飛沫を吸い込んで感染します。1回の咳だけでも、約3,000個のウイルス粒子が飛びます。
もう一つは接触感染と呼ばれ、飛沫に触ることでウイルスが眼や口、鼻から入るものです。プラスチックの表面には72時間ウイルスが検出されることが知られています。
3.ウイルスの排出は?
新型コロナウイルスの場合には、症状が出る2日前からウイルスが排出されます。
無症状でもウイルスを大量に出している人(スーパー・スプレッダー)が10~100人に病気をうつすこともあります。感染の約8割はスーパー・スプレッダーによるという説もあるほどです。
これに対して、インフルエンザは症状がある人だけがウイルスを排出します。
4.飛沫のサイズの違い?
飛沫の中にウイルス粒子が含まれていますが、飛沫はサイズ別に考えることが必要です。100μ(ミクロン)程度の大きなものは、飛散しても2m以内で下に落ちてしまいます。これに対して、5μ前後の細かいものは大気中に浮遊して長く滞留するために、エアロゾルとも呼ばれて注目されています。
5.病気の症状は?
発熱、鼻水、鼻づまり、喉が痛い、咳、だるい、などの症状はインフルエンザと区別がつきません。ただ、新型コロナウイルス感染症の場合には、味やにおいがしない(味覚異常、嗅覚異常)と訴える人もいます。
肺炎(正確には間質性肺炎)が起こると、熱だけでなく、空咳、息切れなどが出てきます。ひどい場合には、呼吸ひっ迫症候群(ARDS)となります。この場合には、酸素吸入、さらにはレスピレーター(人工呼吸器)やエクモ(人工肺)が必要になることもあります。
免疫担当細胞が強く活性化されると、炎症性サイトカインと呼ばれる物質が次々と作られ、サイトカイン・ストームといって多臓器不全を起こす原因となります。
6.この病気にうつりやすい人、重症となりやすい人は?
20歳台がもっとも多く、ついで30歳台、40歳台、50歳台と続きます。子供はこの病気になりにくいと言えましょう。ただし、家族内感染があるのも事実です。
重症化しやすいのは高齢者です。死亡率は60歳台から急増し、80歳台では25%を超えます。このほか、糖尿病、心臓の病気(心筋梗塞、高血圧など)、肺の病気(肺気腫など)、高度肥満、人工透析をやっている人、がんなどの治療で免疫を抑える薬を飲んでいる人、などがなりやすいとされています。
7.病気の経過は?
約8割の人は自然に治ります。しかし、約2割の人で肺炎などを起こして、入院治療が必要になります。特に高齢者は重症化しやすいと言われています。
死亡率は、我が国では1.9%(9月15日現在)ですが、世界的には3.2%です。
一方、我が国のインフルエンザの死亡数は、例年は0.1%(約1万人)程度いますが、今年の死亡者は非常に少ないようです。
8.治療法はあるのか?
現時点では特効薬はありません。症状が強い時は、熱覚ましとか咳止めなどを対症的に使われます。重症になると、レムデシビルという薬やステロイドの吸入なども使われます。
9.ワクチンは?
この病気を予防するワクチンはまだありません。
ワクチンの効き目には抗体がよく目安として使われますが、抗体にも「善玉」、「悪玉」、「何もしない」の3通りがあります。ワクチン接種で「善玉」の抗体が沢山出来てくれれば良いのですが、「悪玉」の抗体だけが作られ、病気が悪化してしまう場合もあります。エイズのように、感染によって抗体ができても全く役に立たない場合もあります。ワクチンの効果には、リンパ球の中のTリンパ球(キラーT細胞)なども重要です。
10.うつらないためには?
次のような「行動変容」が大切です。これを習慣としなくてはなりません。
1)マスク着用
マスクを着用することで、ウイルス粒子を吸い込む量を減らすことができます。ただし、医療用マスクは医療関係者専用のものであり、一般の人が長時間、着用して運動すると酸欠になることがあります。
2)3密を避ける
「密閉」「密集」「密接」を避けるために2m程度の距離を取ることが重要です。これはソーシャル・ディスタンスとも呼ばれます。
3)手洗いをする
石鹸などで手をよく洗うことが大切です。ウイルスがついた手指で口、鼻、眼に触れることで感染が起こります。石鹸などがないときは、アルコール(濃度70%以上95%以下のエタノール)をすりこむことも有効です。
4)消毒・除菌
塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)(0.05%)や次亜塩素酸水などがテーブル、ドアノブなどの消毒に使われます。
5)換気
ウイルスを室外に排出するには部屋の換気が重要です。こまめに換気を行いましょう。
6)その他
咳をするときにはハンカチなどを使って口や鼻をおさえましょう。医療関係者の場合にはゴーグルも使いますが、剣道のシールドと同じで、飛沫を大量に浴びないためです。
おわりに
新型コロナウイルスに対する対策は、インフルエンザの予防にも使うことができます。今年は新型コロナウイルス対策が行われているため、インフルエンザが少ないと言われています。With Coronaの中、我々の「行動変容」によってこそ、これらの病気の予防ができるのです。