公益財団法人 全日本剣道連盟 All Japan Kendo Federation

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剣道における熱中症への取り組み(最終報告)

 2020年6月より開始された「剣道における熱中症報告 報告フォーム」によるオンライン報告システムが9月末日にて終了しましたため、概要と考察をご報告いたします。

 詳細結果は、全剣連「剣道における熱中症 報告フォーム(回答) : 集計結果 9月30日」をご覧ください。

報告件数 22件

重症度内訳(注:重症度の申告は会員の判断による)

概 要

  • 熱中症発生報告は7月が多かった(50%)。
  • 重症度ではⅡ度が多く(59%)、III度は4件(18%)、Ⅰ度は2件(9.1%)にみられた。
  • 救急車搬送は3件であり、うち1件が入院を要した。
  • 入院を要した1名は60代男性、気温35度でエアコンのない環境で稽古の後、15分後に意識消失した。症状の起始と経過からみて、熱中症ではなく、睡眠不足や大量飲酒が誘因となった可能性が示唆された。
  • 9件(41%)は稽古終了後しばらく経ってから(15分~1時間)症状が現れ、熱中症としてはやや非定型的であった。過度の疲労なども否定できない。
  • 2件で、熱中症というよりは酸欠を疑わせる記載が見られた。
    • 1件目:「面マスクが口と鼻に密着し、全く息ができない為に起こった」と記載。
    • 2件目:不織布マスク着用、急に崩れ落ち、意識消失。
  • 発生地域に明らかな地域差は見られなかった。
  • 性別は男性12件、女性9件、不明1件であった。
  • 年代では高校生(7件)、中学生(6件)が多く、続いて40代(3件)であった。
  • 段位は約70%が2段以下の低段位者であり、学校での部活動での発生を反映していると考えられる。
  • 18件(82%)が23~28℃の熱中症の『運動に関する指針』の気温(参考)の注意レベルで起きていた。
  • 発生時の天候や発生時刻に明らかな傾向は見られなかった。
  • エアコンが使用されていたのは2件のみであり、エアコン・換気いずれも行われていない例が1件あった。
  • こまめな飲水は10件、こまめな休憩は12件で行われていたが、暑熱環境下では熱中症を十分には予防できない可能性が示唆された。
  • 全件でマスクまたはフェイスシールドを着用しており、シールドのみが2件、面マスクのみが2件であった。
  • 3件は全剣連で警告している通気性の悪いマスク(不織布マスクなど)を着用していた。
  • 基礎疾患を有する者は2名(40代1名、60代1名)であった。
  • 稽古前の体調については、暑熱順化や水分摂取の不履行、不眠、精神的ストレス、大量飲酒や連日の高温による体力消耗などの管理不十分と思われる例が約半数に見られた。

考 察

  • 熱中症報告は7月に最も件数が多かった。これはコロナ禍による活動自粛、暑熱順化の不足などが関係あると思われる。
  • 熱中症の「運動に関する指針」の気温(参考)の注意レベルでほとんどの事故が起きていた。これについては以下などの理由が考えられる。
    • 剣道具等の着用により、一般のスポーツよりも低い気温で熱中症を来たす可能性
    • 稽古前の暑熱順化が不十分であった可能性
    • マスク・飛沫防止策により体温が上昇しやすかった可能性
    • 稽古前の体調管理が不十分な状態で稽古を行った可能性
    • 自粛後としては稽古時間が長すぎた可能性
  • 湿度については約半数に記載がなく、道場の温度・湿度管理が十分でない可能性が示唆された。
  • 熱中症の防止には温度、湿度の両方の測定が必要であり、暑さ指数(WGBT)計による測定は道場に必須と考えた。
  • 9割の例でエアコンが使用されておらず、特に暑熱順化が十分でない状況下においては、気温にかかわらず可能であればエアコンを使用することが望ましいと考えられた。
  • 空調のない施設においては、設置の検討をすることが望ましいと考えられる。
  • こまめな休憩や飲水だけでは熱中症を十分予防しきれないことに注意喚起が必要と考えられる。
  • 高齢者や基礎疾患のある者については、酸欠と脱水、暑熱順化を徹底する必要がある。
  • 入院を要した1例は暑熱環境による不整脈や心筋梗塞であった可能性もあり、暑熱環境により心血管系疾患の増悪リスクが上昇することについても周知が必要である。
  • 約4割が稽古終了後に発症しており、稽古終了後1時間程度は体調管理に心がける必要がある。
  • 不織布マスクや顔に密着するマスクによる酸欠に注意が必要である。
  • 特に指導者や道場管理者は熱中症の知識を持ち、段階的に稽古量を増加させる計画・立案を行い、また体調不良者の管理を行う必要がある。
  • 来年度以降も同様の報告システムによる情報収集を続ける必要があると考える。

提 言

  • 暑熱順化が熱中症防止には必要である。
  • 道場・体育館に暑さ指数(WGBT)計を設置する必要がある。
  • 面マスクなどの使用による酸欠には注意が必要である。

全日本剣道連盟 医・科学委員会

イラスト(フリー)http://pictogram2.com/

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